秘め事 ※R-18
- 6月1日
- 読了時間: 6分
※パワアド設定ですが、キャラの性格や口調はパワプロ寄りです。
野宿にもずいぶん慣れてきたように思う。狩りをして肉を手に入れて、食べられる野草を選別して、夜は交代で火の番をする。王宮での生活とはまるきり異なるその営みも、兄と二人であれば苦にはならなかった。
そんな旅路を幾日も続けたある日の夜中、ススムはふと眠りから目が覚めた。薄目を開けると焚き火は既に小さくなっており、赤い残り火だけが夜の闇の中で揺らめいている。
「兄さん……?」
火の番をしているはずの兄の姿がないことに気づき、ススムはゆっくりと身を起こした。夜風が肌を撫で、湿った空気が肌を包み込む。
焚き火の明かりの届かない木々の合間から気配を感じ、薄闇の中で目を凝らすと人影が見えた。月明かりに照らされた長身の姿は、まごうことなく兄のものだ。
隠れるようにして何をしているのか――そう疑問に感じたのちに、思い浮かんだのは「用を足しているのかもしれない」という可能性だった。そうなのであれば、声はかけないほうがいいだろう。
そう思ったススムが再び瞼を閉じようとした時、遠くに見える兄の姿が微かに動いた。びくりと跳ねるように肩が震えたあと、そのまま脱力したように動かなくなったのだ。
その様子に引っかかりを覚えたススムは緩慢な動作で立ち上がった。焚き火の残り火を避けながらその場を離れ、音を立てず兄の元に歩み寄る。
――兄さん。
声をかけようとして、ススムは言葉を飲み込んだ。
マモルは木々の間に隠れるようにして座り込んでいた。月光に浮かぶ端正な横顔は上気していて、微かに呼吸が乱れている。
そして、その左手は自身の衣服の中に差し込まれていた。
ススムの胸が早鐘のように打ち始める。月光の下で行われている行為の意味が理解できるほどには、彼も子供ではなかった。
兄の視線が虚空を見つめている。荒い吐息。震える肩。王宮でも旅先でも常に冷静で厳格な兄の姿からは想像もつかない、情欲に満ちた表情だった。
ススムは時間が止まったような錯覚に陥った。
マモルの指が止まり、ゆっくりと腕が下ろされる。次いで深いため息と共に顔を上げた瞬間――月光に照らされた青い瞳が弟を捉えた。
「……ススム?」
二人の間に沈黙が落ちる。
次の瞬間には、マモルの顔がまたたく間に紅潮していった。普段の冷静な表情からは想像できない程の動揺が見て取れる。
ススムは何も言えず、ただ兄を見つめることしかできなかった。
「いや……これは……」
マモルの声は掠れていた。普段の凛とした響きは消え、戸惑いと羞恥に染まっている。
ススムは喉が乾くのを感じた。何か言わなければと思うのに言葉が出てこない。
「……手伝いましょうか?」
やがて、口をついたのは自分でも信じられない言葉だった。
驚きに目を見開いたマモルの表情が、月光に照らされて妙に鮮やかに見える。
「何を言って……」
マモルの声は弱々しく揺らいでいた。動揺が全身から溢れ出している。
「だって……まだ終わっていませんよね?」
ススムは自分の口から滑り出した大胆な言葉に背筋が凍る思いだった。だが、同時に奇妙な高揚感も感じていた。
マモルの視線がススムの顔から逸らされ、長い指先が無意識に服の裾を握りしめる。その仕草を愛おしいと感じた自分にススムは戸惑った。
「冗談にしては質が悪すぎるぞ」
低く絞り出すような声。だがその裏側にある微かな期待を感じ取るのは難しいことではなかった。
ススムは一歩近づく。靴底が小枝を踏む乾いた音さえ明瞭に聞こえるほど静かな夜だった。
「……ここには兄さんと僕しかいません」
ススムの伸ばした手がためらいもなく兄の腕に触れ、冷たく汗ばんだ肌をそっと撫でる。
マモルの腕は硬直したまま動かなかった。
沈黙の中、兄の早い鼓動が皮膚を通して伝わってくる。幼い頃から憧れ敬ってきた兄の、鎧のような虚勢が一枚剥がれ落ちたようだった。
「嫌ですか?」
マモルは答えない。ただ深い息を吸い込み、また吐き出す音だけが闇夜に溶けていく。
月が雲間に隠れ、周囲が濃紺に沈んだ瞬間——兄の温かい手が不意に伸び、ススムの首筋に触れた。
「兄さん……」
ススムの声が夜の静寂に溶ける。
マモルの手はススムの首筋から離れようとしない。まるで縋るようなその感触にススムの心臓が激しく脈打つ。
兄の掌の体温。鼓動の速さ。少し汗ばんだ肌の匂い――それらが伝搬したようにススムの鼓動も速くなっていく。
「ススム……」
マモルの両腕が恐る恐るススムの背中へ回される。強くは抱き寄せられなかった。壊れ物を扱うような慎重さだった。
「ボク達は……」
「いいんです」
ススムは遮るように言った。
「何も考えなくていいんですよ」
マモルの肩に少しだけ力が入り、長い腕が弟の身体を引き寄せた。木立のざわめきさえ遠く感じるほどの静寂の中、二人の息遣いだけが重なり合う。
マモルの掌がススムの腰に触れた。
招くように軽く脚を開くと、マモルの手が躊躇いがちにズボンの中へと滑り込む。指先が太腿の内側を這うように撫で、その感触に思わずススムの肩が跳ねた。
「兄さん……」
兄の指が優しく弟の体を暴いてゆく。夜の森に二人分の熱い吐息が響く中、兄弟の境界線は徐々に溶けていった。
「兄さん……もっと……」
懇願に応えるように、マモルの唇がススムの耳朶を捉えて鎖骨へと降りていく。指先が執拗に弟の弱みを探り当ててはまさぐり、快楽の淵へと追い詰めていった。
「兄さん……好きです……」
ススムは兄の首に両腕を回して引き寄せた。
「……ああ、知っている」
マモルの体重がススムにかかる。
兄弟の境界が崩れる音を聞きながら、ススムは兄の名を呼び続けた。月が雲間から覗く度、絡み合う二人の影が地表に妖しく踊る。
やがてマモルが低い呻きと共に動きを止めた時、ススムは満ち足りた気持ちで兄を受け止めた。
「痛くないか?」
マモルが体液に濡れたススムの身体を手拭いで丁寧に拭っていく。身体の深いところで疼く熱が未だ冷めやらぬ中、兄の触れ方はあまりにも優しかった。
「大丈夫ですよ」
ススムは微笑んだ。全身の倦怠感は否めないが、それ以上の満足感が胸を満たしている。
未だ体内にある残滓は、マモルがススムを求めた証だ。下肢に残った鈍痛もまた、マモルがそこを支配していたという痕跡にほかならない。それがススムに充足感を与えていた。
城に帰れば二人きりになる時間などほぼない。皇族である二人にとっては、入浴中だろうが情事のときだろうが周囲には誰かしら従者がいるのが当たり前だった。
こうして二人きりで過ごせるのは旅をしているいまこのときだけだ。それがススムを大胆な行動に駆り立てたのかもしれなかった。そして、それはマモルも同じなのかもしれない。
身体を清め、衣服を身につけたあと二人は身を寄せて互いの体温を感じ合っていた。
マモルに寄り添いながら星空を見上げると、先ほどまでの高揚感が嘘のように凪いでいき、代わりに愛おしさが湧いてくる。
「どうした?」
「いえ、なんだか幸せだなあって思ったら自然と顔に出てしまって……変でしょうか?」
「いや」
マモルは苦笑しつつススムの髪を梳く。その眼差しは柔らかく、慈しみに満ちていた。それは王位継承権一位の皇子としての威厳ある顔つきではなく、ススムの兄としての素の表情であった。
マモルもススムも、いずれは親が決めた婚約者と結婚することになるのだろう。それは皇族として生まれた者の責務であるし、そういうものであると割り切ってはいた。
だからこそ、いまこのときだけは――お互いだけを想っていたかったのだ。

